あるねこのはなし

だいぶ昔、
私めが、アメリカの銀行の東京支店の調査部で
みんなに迷惑をかけながら
ばりばり?と働いていた頃の出来事。


どこかの喫茶店でお茶していて
隣のテーブルの女の子が友達に話していた
あるねこのお話。

何かにつけて思い出すんだ。
あるねことその飼い主だった男の話。



その男は、フランス料理のシェフをめざしていて
飼っていたねこを
ひと(おばあちゃんちだったか実家だったか)
…に預けてフランスに修行に行ってたんだそうだ。


ある期間(一年だったかな)頑張って一時帰国したら
かわいがっていたねこがぼろぼろになっていたとか。
飼い主が代わったことがショックで
ごはんもろくに食べなくて変わり果てた姿になってた。



それで彼は、かわいがっていたニャンコに
そんな思いをさせた自分を責めたんだそうな。
大事な家族を犠牲にして修行しても
立派な料理人になってひとを喜ばすことなんてできない。
それでフランス修行断念して
日本に帰ってきちゃったという話。


「ねこのために夢をあきらめたんだよ〜信じられるぅ?」
ってな感じで彼女はしゃべっていたと思う…
まるで、私にいっているようだった。


そのご彼がどうなったか、
料理人になることまであきらめたのかどうかは
聞き出せなかったんだけれど
(彼女は私の友達じゃないし、私にはわたしの連れがいたし)


「で、いまねこと暮らしているらしい…ありえないよねぇ〜」
って、いってたかな。


すごくやさしい男なんだね、きっと。



どうもこの話が、ことあるごとにひっかかかってね。


仕事をがんばることが親孝行じゃない・って。
早く孫の顔をみせてあげた方がいいのかなと思ったり。
自分の本当の家族が欲しいっておもったりして
おかあさんになる踏ん切りがついたっていうか。


私はこの後、子供ができて(いや、つくって)会社を辞めた。
大きなお腹して、みんなにもらった花束を抱えて
ロッカールームでおいおい泣いた。


そして無事にお母さんになったんだ。
同居していたダンナの両親に
子供を預けて働くこともしなかった。



隣の席のお客なのに、まるで
私に話しているみたいによく聞こえたねこの話。
状況だけは鮮明に憶えているけれど
夢の中のできごとだったのかもしれないとも思う。